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空風羅刹の隠れ家
にじファン大虐殺から逃亡してきました。
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第2話:ラ・ヴァリエール公爵
「……大きいですね」

「ラ・ヴァリエール公爵はトリステイン最大の封建貴族だからな。ゲルマニアとの国境を守るという意味もあるしこのぐらいの大きさも不思議ではない」

ラ・ヴァリエール公爵邸を見た私は、その屋敷の巨大さに圧倒された。いや、屋敷と言うよりはむしろ城と言うべき造りだ。金はあっても領地自体はそれほど広いわけではない我がマーロン領ではこんなサイズの城は維持できないだろう。いや、こんな城を持てるのはラ・ヴァリエール家以外では王家とクルデンホルフ大公家ぐらいだろうが。

「いらっしゃいませ。招待状をお見せいただいてもよろしいでしょうか?」

そして城の門で声をかけてきたヴァリエール家の私設騎士団の団員もそんじょそこらの傭兵とはレベルが違う。立場上あまり大げさな戦力を保有できないマーロン家では全く勝負にならずに潰されるだろう。

……ああ、これだけの領地と財産と戦力が手に入る。それだけで父を初めとする多くの貴族がラ・ヴァリエール公爵家との婚姻を望むのがよくわかる。……私も、欲しい。


そんなことを考えている間に馬車は屋敷の前で止まり――城の中に屋敷があるような構造のため門を通ってからも暫くは馬車に乗っていた――中から現れたメイドが私達を部屋へと案内する。
当たり前だがこういった宴に参加する場合は相手の貴族の屋敷に泊まるのが普通だ。移動だけで数日かかるような領地から来る貴族もよくいるし、移動方法が馬車か竜籠しかないこの世界では移動時間は天候に大きく左右されるよって、多少早めにつくように出発し、宴の日までは屋敷に泊まりつつ他の貴族と親睦を深めるのだ。実際私達もかなり早めに来ている。
もちろん多くの貴族を泊めるにはそれだけの広さの屋敷と十分な財産が必要なため、こういった宴を開けるというだけで大貴族だということのアピールにもなる。新興貴族がよく宴を開くのはただの成金趣味と言うわけではなくこういった理由もあると言える。

部屋についた後は連れてきた使用人に手伝わせて旅装から正装へと着替えた。……と言ってもずっと馬車での移動だったわけで旅装も十分派手なのだが。そして、着替えが終わったころに公爵が部屋にやってきた。

「お久しぶりですな、ラ・ヴァリエール公爵」

「ああ、久しぶりだなマーロン伯爵。娘の誕生日会に来てくれてありがとう、ぜひ楽しんでくれ」

公爵はまさしく大貴族と言うべき貫録を持った中年男性だった。私の父はむしろ商人に近い。

「紹介しよう、私の息子のガレリアンだ」

「ガレリアン・ド・マーロンと申します。今日はお嬢様の誕生日会にお招き下さりありがとうございます」

私はそう言って公爵に礼をし、顔をあげた。見ると公爵が感心と驚きが半々の表情で私を見つめている。

「……賢い息子さんだな。ルイズ――末娘と大して変わらないというのに」

「はは、ありがとう公爵。私としてはもう少し可愛げが欲しかったのですがね。……さて公爵、こんな祝いの時になんですが幾つかお話が」

「ああ、私の方も幾つかある。執務室の方に来てくれんかね?」

「分かった。……ガレリアン、お前なら大丈夫だろうが、大人しくしているんだぞ」

父はそう言うと公爵と共に部屋を出て行った。おそらく政治の話だろう。必要以上に早く着いたのは他の貴族が来る前にそういった話を終わらせたかったからか。

さて、こうなると宴までの数日がかなり暇になるな。本を持ってきてはいるが流石に数日分はない。公爵家の使用人に言って庭の散策でもするか……。
第1話:とりあえずの野望
あれから1年と少しが経ち、私は今両親と共に馬車に揺られてラ・ヴァリエール公爵という大貴族の屋敷に向かっている。

ここで我がマーロン家の特殊な立場について説明しよう。

マーロン家は一言で言うと「ゲルマニアとの国境にあるが決してゲルマニアとは戦わない家」だ。
これがどういうことかと言うと、まずトリステインとゲルマニアは大小問わずかなりの回数戦争を行っている。しかし、だからと言って常に険悪なわけではなく、商取引もかなり盛んに行われている。

さて、そんな状況で戦争が起きたからと言ってゲルマニアとの付き合いを完全に無くしてしまうわけにはいかない。2年もたてばゲルマニアを相手にしていた商人は全滅してしまうだろうし、それは国家にとって多大な損害となる。ゲルマニアにとっても同じことだ。

ゆえに、我がマーロン家はそんな状況下でもゲルマニアと通常通りの取引をするための窓口として存在しているのだ。我がマーロン領がその安全性に目を付けた商人たちで賑わい、商業都市として発展するのもある意味では当然の事だろう。

話は変わってラ・ヴァリエール公爵とマーロン家の関係だが、対ゲルマニアの過激派と穏健派の筆頭同士ではあるがかなり仲がいい。と言うよりその立場上仲が悪くなるとゲルマニアとの開戦・休戦の際非常に不便なことになるため両家は意図的に出来るだけ仲良くしようとしている。

そして、今日私達がラ・ヴァリエール公爵の末娘の6歳の誕生日会に向かっているのもそういった「仲が良いですよアピール」の一環と言うわけだ。逆に私の誕生日には公爵家の使いが必ず来るし、生まれた時には公爵自ら祝いに来たらしい。

「ガレリアン、お前にはまだ難しいかとは思うが言っておくぞ。私は今日これから会うラ・ヴァリエール公爵の三女をお前の将来の妻にしたいと思っている。我がマーロン家は財産はかなりある方だが新参ゆえ王宮での立場は低い、だが公爵家との繋がりを強くすればより強い立場を手に入れる事が出来る。なあに、お前は7歳とは思えないほど聡明だし、1年と少しでコモンマジックどころか水のドットの魔法をほぼ完ぺきに使えるようになるほど魔法の才能にも優れている。ライバルも多いだろうがお前なら大丈夫だ」

父の言葉は私を安心させようとするのが半分、本気で期待しているのが半分と言うところだろう。仮にも公爵家の娘である以上競争率も高く、そう簡単に何とかできるものではない。しかし、父の言う通り普通のメイジは最初の1・2年はコモンマジックに費やすものだから、特にこの伝統と魔法を重視するトリステインでは私の評価は高い方になる。母の話ではパーティに呼ばれるたびの自慢しているらしいし。つまり伯爵家という地位も含めて私には十分に目があるのだ。
そして公爵家の三女との結婚だが、これは私としても異存は全くない。公爵家の財力と権力は私の目的を果たすのに大きく役立つだろうから。……しかも、現ラ・ヴァリエール公爵には子供は3人、それも娘しかいない。その上聞いた話では長女は17歳という適齢期にもかかわらず婚約者すらおらず(正確に言えばいた婚約者が急死した)、次女は体が弱く子供を産める体ではない。つまりうまくすれば婿養子としてラ・ヴァリエール公爵家を継げる可能性すらあるのだ。
とにかく、大罪の器を集めるうえでラ・ヴァリエール公爵の三女との結婚は良い事ずくめだということだ。……だから。

「お任せください父上、必ずやラ・ヴァリエール公爵の三女を口説き落として見せます」

「……私は時々お前が本当に10才にもならない子供なのか信じられなくなることがある。まあ、そこまで焦らずとも好印象を与えればよい。公爵にも、もちろんその三女にもだ」

「はい父上」

私はそう答え、目を閉じてどのような言葉をかければいいかを考え始めた。

……まあ、とりあえず今は父の言う通り『お友達』で十分だろうが。